ょっと参った。彼から通帳を預かっていた庸太郎を責める気にもなれなかった。
ベルが鳴り響いたので、父子は上と下とに別れた。
その晩葉子を例の近所の旅館に残して、庸三は家へ帰ってみたが、庸太郎が用箪笥《ようだんす》の引出しに仕舞っておいたという残りの二百円を見に行ってみると、それももう無かった。金の代りに赤インキで何やら書きつけた紙片《かみきれ》が空《から》の封筒のなかに入っていた。
「いや、またやられた。」
庸太郎は笑いながら紙片をもって来て庸三にも見せた。この金一時拝借します――赤い文字でそう書いてあった。
ついこのごろ、上の学校の入学試験を受けるはずの庄治が、ちょうど葉子も傍《そば》にいる時、庸三の前へやって来て、今の時代にこの上の学問の無駄なことと、学校に何の興味もないこととを訴えて、庸三がいくら繰りかえし言い聴《き》かしてみても、主張を曲げようとしなかったその時の蒼白《あおじろ》い顔が、ふと庸三の目に浮かんで来た。
十八
ある宵《よい》も小夜子が遊びに来ていた。庸三の末の娘をつれて二人で浅草へ天勝《てんかつ》の魔術を見せに行った帰りに、上野で食事をしてか
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