そう、見たい。」
 葉子は甘えるように言った。
「行ってみませんか。」
 すると葉子も行きかけて、
「先生は? いらっしゃらない。」
「いいや、見てくるといい。」
 庸三は少し尖《とが》っていたが、やはりじっとしていられない質《たち》で、二人の影が階上へ消えてから、廊下をぶらぶら歩きはじめた。入口のホールへ出てみると、美々しいドレスの外人も二組三組そこここに立話をしていたが、まだそんなに込んでもいなかった。「私をもっていることに十分誇りをもっていて下さい」とでも言いそうな葉子と二人きりで、晴れがましい劇場の廊下など押し歩くのが気恥ずかしく、大抵の場合子供を加担させて擬勢するのが彼の手だったが、子供に委《ま》かしきりにしておくのも何か不安であった。わざと危険に曝《さら》しながら、心は穏やかではなかった。
 ちょうど知った顔もそこに見えて、彼は円形のクションに並んでかけながら、しばらく世間話をしていた。
「君は実に羨《うらや》ましいよ、若い綺麗な恋人なんかもって。」
 いつも剽軽《ひょうきん》そうなその友達にそう言われて、庸三は寂しそうにうつむいた。
 それからまた一人二人の仲間にも逢って
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