かりのことで気まずい思いをするのもいやだった。些細《ささい》なそんな拘泥《こうでい》も手伝って、彼は朝飯もろくろく喉《のど》へ通らなかった。しかも勘定を取ってみると、それを払ってチップをやっても汽車賃には事欠かないほどだった。彼は葉子のところへ行く口実もなくなったのに少し力を落としながら、やがて自動車を呼んでもらった。
表に爆音が聞こえて来た。庸三は葉子に黙って帰るのも悪いような気もしながら、彼女の家のある狭い通りを左に見て、今ごろは彼女たち三人と子供とで何をしているかと想《おも》ってみたりして、流れに沿った道を通って行った。
汽車に乗ってみると、彼の気持もようやく落ち着いて来た。いつものように傍《そば》に葉子のいないのを物足りなく感じながらも、憂鬱《ゆううつ》な囹圄《ひとや》から遠のいて来た心安さもあった。
家へ帰って書斎へ入ると、彼は半病人のような体の疲れと衰えを感じて、何はともあれ床をのべさせて横たわると同時に、女中に命じて日頃かかりつけの渡瀬《わたせ》ドクトルにいつものように来てもらった。
やがてドクトルは糊《のり》に硬張《こわば》った診察着でやって来て、ベッドの傍に膝
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