い取った黒い地紋の羽織を着ていたので、顔の感じが一層|石膏《せっこう》細工のように硬《かた》かった。
「もう帰るだろう、もう帰るだろうと思って、僕は今まで飯も喰《く》わずに待っていたんだ。」
庸三は、腹を立てていた。
葉子は台所の方を背中にして坐っていたが、化粧のせいかいつものように、溶けるような目の表情もないかわりに暗い影もなかった。
「だって、あの人たちが久しぶりだから御飯をおごると言ってくれるし、編輯《へんしゅう》の人たちに逢《あ》えば女はそう事務的にばかりも行かないものなのよ。」
庸三はその雰囲気《ふんいき》を想《おも》いやりながらも、それもそうかと思ったが、今度は髪や顔をくさしはじめた。葉子は半ば惘《あき》れた顔をしていたが、北山やお八重が羨望《せんぼう》の目で、どこに陰影一つない粧《つく》り立ての葉子の顔を見ていたので、庸三はなおさら虫が納まらなかった。そして到頭彼は座を蹴《け》るようにして立ちあがった。そして羽織を着ると折鞄《おりかばん》とステッキをもって外へ出た。彼はどこかでいくらか手のかかった晩飯も食べたいと思った。
葉子は北山を従えて後から尾《つ》いて来た。
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