う気もして、葉子と一緒に家を捜してみることもあった。
 葉子はその日|家《うち》を出がけに、晩方にはきっと帰って一緒に御飯を食べるからと言いおいたので、庸三もそのつもりで待っていたが、すでに日が暮れそうになっても彼女は帰って来なかった。ちょうど女中のほかに、洋画修行の北山という北海道時代から葉子の原稿の手助けをしたり、東京ではまた踊りの師匠の内弟子である瑠美子の様子を、時々見に行ったりしている女も来ていたので、庸三も退屈はしなかったが、家に葉子がいないと、やはり花が凋《しぼ》んだような感じで、電燈の影さえ寂しかった。それに時間がたつに従ってだんだん餒《ひも》じくもなって来た。
 やがて八時も過ぎ九時にもなった。
 狭いこの町に、ホテルへ客を送って来る自動車の警笛の音が幾度か響いて、夜も大分|更《ふ》けた時分に、門の前で自動車のエンジンの音がしたと思うと、メイ・ウシヤマで綺麗《きれい》にウエイブをかけた黒髪をてらてらさせて、濃いめな白粉《おしろい》やアイシェドウに、眉《まゆ》や目や唇《くちびる》をくっきりさせながら、何か型にはまったような美しさで葉子が帰って来た。銀で千鳥をところどころ縫
前へ 次へ
全436ページ中261ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング