誌社を訪問する用事があって、一人で東京へ行った。庸三もそう続けてそこにいたわけでもなかった。葉子と生活をともにしていることも、決して楽ではなかった。自身の家庭に居馴らすことができてこそ、女も彼の日常の伴侶《はんりょ》であり、朝夕の話相手でありうるのだったが、彼の生活に溶けこむこともできない生活条件の下では、かえって重荷を、あんな事件もあった後で、もうこの辺で卸してしまいたい気もしていた。若い彼女の生活に附き合って体や頭を痛めながら調子を合わしていることは、何と言っても苦痛であった。生活の負担も考えないわけに行かなかった。
 東京へ帰ると、彼はまた大川端《おおかわばた》の家へ行って、風呂《ふろ》に入ったり食事をしたりして、やっと解放されたような気分になれるのであった。
 入れかわりに長男に連れられて、子供たちが逗子へ行ったりしたが、そのころには博士との関係についての彼の疑いも、いつか微《かす》かな影のようなものになっていた。
 二度三度行くうちに、何か疎《うと》ましい感じだった逗子の町や葉山の海岸にも、いつとはなし淡い懐かしみも出来て、この一と夏を子供と一緒にここで過ごすのも悪くないとい
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