いきなり部屋を出ようとしたが、駅まで行くには車を呼ぶ必要もあった。懇意になりかけたマスタアやボオイたちの手前、病人の葉子を置き去りにするのも、体裁が悪かった。K――博士との関係が、どこまで進んでいるかも気懸《きがか》りであった。何よりも適当な時機に、衷心から釈《と》け合うことは望めないにしても、表面だけでも来た時のようにして一緒に帰りたかった。一人帰れば、あの寂しい書斎でやる瀬のない一夜を、おちおち眠ることもできずに苦しみ通すに違いないのであった。
 庸三はやがて食事を部屋へ持ちこませて、フォクを執ったが、葉子はコンソメの幾匙《いくさじ》かを啜《すす》って、オレンジを食べていた。
「御免なさいね。」
 葉子はそう言って、またベッドに仰向きになった。庸三は赤々と石炭の燃えているサルンへと出て行った。

 間一日おいて、ある日の午後葉子はしばらくぶりで、踊りの師匠に内弟子として預けてある瑠美子の様子を見に行きたいとかで、ちょうど遊びに来合わせていた二人の青年と一緒に出て行った。青年たちが省線で帰るにつけて、ふと思いついたふうにも見えたが、庸三もいつもの気持で送り出しもしなかったし、葉子も何
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