か棄《す》て台詞《ぜりふ》めいた言葉を遺《のこ》して出て行った。庸三は二度とホテルへは帰って来るな、といった意味の言葉を送ったが、彼女は彼女で家《うち》の一軒も建ててくれるだけの親切でもあるならと、差し当たっての彼女の要求をそれとなく匂わした。
独りになってみると、部屋がにわかに広々してみえ、陰鬱《いんうつ》に混濁した空気が明るくなったように見えた。気もつかないうちに、春はすでに締め切った硝子窓《ガラスまど》のうちへもおとずれて来て、何かぼかんとした明りが差していた。いつか散歩のついでに町の花屋で買って来たサイネリヤが、雑誌や手紙や原稿紙の散らばった卓子《テイブル》の隅《すみ》に、侘《わび》しく萎《しお》れかかっていた。
じきに夜になった。庸三は外へ出る興味もなく、風呂《ふろ》へ入ってから、照明のほのぼのした食堂へ入って行った。洋楽のレコオドがかかっていて、外人が四五人そっちこっちのテイブルに散らばっていた。
アメリカ帰りのマスタアが、ここにこのホテルを建てた当初から現在に至るまで、およそ十年余りのあいだ、ここに滞在している仏蘭西人《フランスじん》の異《かわ》ったプロフェッサが一
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