た庸三にも、この怖《お》じ気《け》もない葉子の悪戯《いたずら》には、目を蔽っているわけには行かなかった。彼は少し興奮していた。そして彼への原稿の依頼をかねて、葉子にも何か短いものをと、記者が話し出した時にいきなり侮辱の言葉を浴びせた。
「こんなものに何が書けるものか。」
「いや、しかし先生の目が通れば……。」
「僕は御免ですよ。」
 庸三はこの場合博士の前で、莫迦《ばか》げた道化師にされた鬱憤《うっぷん》を、それでいくらか晴らしたような気もしたが、記者につづいて、博士が辞して行ったあと、一層憤りが募って来た。彼はベッドの傍《そば》を往《い》ったり来たりしながら、葉子を詰《なじ》った。葉子はそれについては、弁解がましいただの一言も口にしなかった。
 やがて庸三は原稿紙や雑誌や、着替えのシャツのようなものを、無造作にトランクに詰めはじめた。そして錠をおろすと、ボオイを呼んでビルを命じた。
「K――さん名誉ある人ですから、それだけはお考えになってね。」
 葉子は目に涙をためながら哀願した。
「それに先生も少し邪推よ。後で話しますわ。」
 勘定をすますと、庸三は重い鞄《かばん》を提《さ》げて、
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