にごわごわした袴《はかま》で、博士がやって来たのは、間もなくであった。葉子は博士が来てくれることを知ってから、にわかに顔色が晴れた。ちょうど庸三は煙草《たばこ》を買いに、事務室のところへ来ていたが、そこへ目の大きく光った博士がおずおず入って来て、慇懃《いんぎん》に言葉をかけた。
「お見舞いに上がったのですが……。」
「お忙しいところ恐縮でした。どうぞ。」
 和服姿で肱掛椅子《ひじかけいす》にかけたところは、博士はいかにもどっちりした素朴《そぼく》な中年の紳士であった。
 葉子はじめじめした時雨《しぐれ》が退《ひ》いて、日光が差したように、枕《まくら》のうえに上半身を擡《もた》げて、「先生!」とさも親しげに呼びかけながら、庸三をそっち退《の》けの、朗らかな声で話しかけたが、博士は庸三に気を兼ねるように、むしろ話のはずむ彼女に目配《めくば》せしたいような目つきで、穏やかに受け答えをしていた。話は大体博士の洋行中の生活に関することであった。
 やがて紅茶を啜《すす》ってから、診察に取りかかった。患者として扱いつけられたという以上の焼きつくような、しかし博士の良心によって適当に節制された愛の目
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