のだった。
 ある晩も二人は行きつけの小料理屋の一室で、食事をしていた。庸三はどこへ行っても、床の間の掛軸や花瓶《かびん》などに目をつける習慣になっていて、花の生け方などで料理がひどく乱暴なものか否かを大体|卜《ぼく》するのであったが、今そこに蕪村《ぶそん》と署名された南画風の古い軸がかかっていたので、それが偽物だということは、絵柄と場所柄でわかるにしても、ひょっとすると掘出し物ではないかという好奇心も手伝って、無下に棄《す》てたものでもなさそうなその絵を幾度となく眺め返していた。彼は逃げようとして絶えず隙を覗《うかが》ってでもいるような、何かぴったりとしない葉子の気分に、淡い懊悩《おうのう》と腹立たしさを感じながら、それを追窮する勇気もなく、それかと言って器用に身を交《かわ》すだけの術《すべ》もなく、信じないながらにわざと信じているようなふうをして、苦悩の泥濘《でいねい》に足を取られていた。それというのも、そういう場合の彼女の媚態《びたい》が、常よりも一層神経的でもあり煽情的《せんじょうてき》でもあって、嫉妬と混ざり合った憎悪と愛着の念が、彼を一種の不健康な慾情に駆り立てたからで、お
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