関へ上がって行った葉子を取りまいて、万歳を叫びながら胴あげしていた。庸三はきまりが悪くなって、その隙《すき》にするするとそこをぬけて、番頭の案内で、二階の一室に納まったが、やがて部屋へ入って来た葉子の疲れた顔にも、興奮の色があった。
「困ったな。悪いところへ来てしまった。」
「あの人たちみんないい感じよ。帝大の人たちだわ。」
 臆面《おくめん》のない葉子のことなので、それを好いことにしていた。
 二人は一と風呂《ふろ》入ってから、食事を初めた。そこへ十人ばかりの学生が、前よりも真面目《まじめ》な態度で、文学論を闘《たたか》わしに来たが、葉子はそれを一手に引き受けて、にやにや笑っている庸三をそっち退《の》けに、綺麗《きれい》な手にまで表情をして、薄い唇《くちびる》にべらべらと止め度もなく弁じ立てたものだったが、その時に限らず、青年たちの訪問する時、彼らの愉快な談話に対するのはいつでも葉子で、庸三は聴《き》かぬでもなしに口数を利かなかった。どうかすると庸三の思いも及ばない美しい詩が、出任せな彼女の口から閃《ひら》めいたが、庸三にとってはそれが花か月のような女性の世界の神秘のような匂いもする
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