を見つけて、その方の工作も進めつつあるのだろうという気もしながら、とかく不安や嫉妬《しっと》に理性を失いがちな彼ではあったが、そうした憂鬱《ゆううつ》な苦悩のなかにも、彼としては八方から襲いかかって来る非難のなかに、彼女の存在を少しでも文壇的に生かしたいと思った。恋愛も恋愛だが、この崩れかかって来た恋愛に、何か一つの目鼻がつき、滅茶々々《めちゃめちゃ》になった彼の面目《めんぼく》が多少なりとも立つものとすれば、それは彼女の才能を伸ばすことよりほかの手はなかった。
冬の日差しの暖かい静かな町へ、二人は時々散歩に出かけたが、庸三に寄り添って歩いている葉子はとかく神経的な感傷に陥いりがちで、鈍感な彼に何かを暗示するような謎《なぞ》の言葉をかけることもあった。ちょっと特色のあるホテルの食事にも飽きると、遊びに来た若い人たちをも誘って、ガアドの先きにある賑《にぎ》やかな小路の小料理屋へ入って、海岸の町らしい新鮮な蟹《かに》や貝の料理を食べることもたびたびあった。ちょうどプロレタリア文学の萌芽《ほうが》が現われかけて来たころで、若い人々の文学談にもそんな影が差していたが、話の好きな葉子はことに若
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