いた。葉子は人の少ない時黒い羽織を着てよくそこへ入って行った。そして煖房《だんぼう》の熱《ほて》りから少し離れたところで、アメリカの流行雑誌などを見ていたものだが、外人たちの雰囲気《ふんいき》も嫌《きら》いではなかった。
「先生……。」
彼女はそう言って、時々人気のない煖房の前へ彼を誘い出すこともあったが、大抵二人きりでいる部屋が気詰りになって来ると、うそうそ廊下へ出て行くのであった。庸三はK――博士とのなかを、朧《おぼろ》げに感得していたものの、先きは人も知った人格者であり、尊《とうと》いあたりへも伺候して、限りない光栄を担《にな》っている博士なので、もし葉子の嬌態《きょうたい》に魅惑された人があるとしても、それは病院の他の若い人か、それとも、例の婦人雑誌の記者だろうかとも思ったり、または真実はやっぱり刀を執ってくれたK――博士のようにも想像されたりした。が、庸三も彼女の物質上のペトロンを失ったことに、多少の責任を感じてもいたし、物質的にまだ一度もこれという力を貸していないことに相当|負《ひ》け目も感じていたので、そんな点では決してぼんやりしていない彼女なので、何かの手蔓《てづる》
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