すると熱発を感じたが、外科ではあるが、K――博士《はかせ》のくれる粉薬《こなぐすり》は、ぴったり彼女の性に合っていると見えて、いつも手提《てさげ》のなかに用意していたくらいだったので、少し暖かいところへ出てみたいと思っていた。庸三はちょうど新聞を書いていたから、一緒に行くのに都合がよかった。葉子も別に独りで行きたそうにも見えなかった。それに旅行というほどのことでもなかった。つい無思慮な二人の間の因縁の結ばれた郊外の質素なホテルで、余寒の苛々《いらいら》しい幾日かを過ごそうというだけのことであった。
けれどホテルへ乗りつけた時、葉子は決して楽しい気分で、部屋へ落ち着いたとは思えなかったが、サンルウムのような広いベランダを東と西に持ったサルンの煖炉《だんろ》には、いつも赤々と石炭が燃やされ、部屋にもスチイムが通っていて、朝々の庭に霜柱のきらきらする外の寒さもしらずに、読んだり書いたりすることができた。それに日曜を除いては昼間は人気《ひとけ》も少なかったが、夜分になると、勤め先きから帰って来る男女の若い外人が、一杯サルンに集まって来て、そう喧《やかま》しくない程度で、楽しげな談笑をつづけて
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