そって、行きつけの支那料理屋で、晩飯を御馳走《ごちそう》しただけだというのだった。記者が葉子の讃美者であるだけに、庸三はちょっと疑念をもった。
「だってああいう人たちには、私などはたまにそういうことをしておく必要があるのよ。私原稿料の前借だってしているのよ。」
庸三はそれもそうかと思って、口を噤《つぐ》んでしまったのだが、その晩もちょっとその辺を散歩するつもりで、二人で旅館を出ると、わざと大通りを避けて区劃《くかく》整理後すっかり様子のかわった新花町あたりの新しい町を歩いた。そして天神の裏坂下から、広小路近くのお馴染《なじみ》の菓子屋が出している、汁粉屋《しるこや》へも入ってみた。よく彼の書斎に現われる、英文学に精《くわ》しい青年の兄の経営している、ちょっと風がわりの店であった。
そしてそうやって歩いていると、いつかまた別れる潮を見失って、彼は葉子の部屋で一夜を明かすのであった。
庸太郎と今一人、最近の英文学に興味をもっているその青年H――と一緒に、庸三の全集刊行の運動をしようとか何とか言って、葉子がまだ近所に一軒|世帯《しょたい》をもちたての時分、いきなり訪問して来て以来、まる
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