葉子は立てた長い両膝《りょうひざ》を手でかかえながら、呟《つぶや》いた。
「また先生のとこへ来ようかな。子供をお母さんに預けて、田舎《いなか》へ還《かえ》して……。」
「来てもいいよ。」
庸三は答えた。また何か起こるに違いない、――彼はそれも思わないわけにはいかなかったが、差し当たりそうするよりほかなかった。毒気のない態度も感じが悪くなかった。
しかし葉子は前よりも、少し用心深かった。庸三の部屋へ入って来るにしても、朝から晩まで彼の傍《そば》に居きりにすることは、何かと不便であった。まだ本統には見切りをつけていない秋本との交渉を、自分が直接に開始する場合にも、田舎へ還った母を通しての間接の場合にも、庸三に打ち明けられないことも出て来るに違いなかった。それでなくても息をぬく場所が、どこかに無くてはならなかった。そんな場合の用心に、葉子は隣りの下宿に一と部屋取っておくことにして、荷物をそっくり裏の家へ運びこんで来た。例の箪笥《たんす》と鏡台が庸三の部屋へ持ち込まれて、化粧品の香がその日から仄《ほの》かに部屋に漂った。
十四
葉子はそのころになっても、なお婦人雑誌の
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