気分はまるで無くなっていた。それに痍《きず》もまだ充分ではなかった。
「当分通わなきゃならないのよ。」
 彼女は畳や木の香の高い彼の部屋へ、そっとやって来て、そんなことを言っていた。
「結核じゃないか。」
「それも幾らかあるらしいわ。沃度剤《ヨードざい》も買わせられたの。」
 そしてその後で、葉子は病院で受け取った秋本の手紙を帯の間から出して、
「せっかく行ったのに、予期に反して、私が飛びついてもくれなかったといって怒っているの。今まで月々送ったお金の計算もしてあるの。もうすっかり人生がいやになったから、これから漂浪《さすらい》の旅に上る、というようなことも書いてある。」
 そう言って長さ四五尺もある手紙を繰り拡《ひろ》げて見せた。庸三はちょっと手に取って見た。熱情の溢《あふ》れたような文字が、彼の目に痛く刺さるので、ろくに読む気にもなれなかった。秋本について今まで葉子の言っていたことは、すべて嘘《うそ》でないことが、初めて確かめられた。葉子に猜疑《さいぎ》の目を向けていたのが、すまないような気がした。秋本に対しても彼も同罪だと観念した。
「金をくれる人がなくなって、困ったもんだな。」
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