を寄せて来た。やがて玄関へおりて行った。
四十分もすると庸太郎が帰って来た。
「面白いや、あの女。」
「どうした。」
「番町の独逸人の屋敷へ行くというから、一緒に乗りつけてみると、ドアがぴったり締まっているんだ。いくら呼び鈴を押しても、叩いても誰も出てこないもんだから、あの人|硝子戸《ガラスど》を叩き破ったのさ。出て来たのは立派な禿頭《はげあたま》の独逸人でね、暴《あば》れこもうとするのを突き出すのさ。そして僕の顔を見て、貴方《あなた》は紳士だから、この酔っぱらいを家まで連れて行ってくれ。こんなに遅く、戸を叩いたりして外聞が悪いからと言うもんだから、まあ宥《なだ》めて家まで送りとどけたんだけれど、自動車のなかで滅茶《めちゃ》苦茶にキスされちゃって……。手から血が流れるし、ハンケチで括《くく》ってやったけれど。いや、何か癪にさわったことがあるんですね。――それにしても、あの独逸人は綺麗《きれい》なお爺《じい》さんだな。」
庸三は黙って聞いていた。
ある日古い友達の山村が、ふと庸三の部屋へ現われた。作家であった山村は瀬戸物の愛翫癖《あいがんへき》があったところから、今は庸三の家から
前へ
次へ
全436ページ中200ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング