っていたりした。しかしクルベーは小夜子を憎まなかった。目に余るようなことさえしなければ、彼の目褄《めづま》を忍んでの、少しばかりの悪戯《いたずら》は大目に見ようと思っていた。彼はその一人|子息《むすこ》が、自転車で怪我《けが》をして死んでから、本国へ引き揚げる希望もなくなっていた。武器を支那《シナ》へ売りこもうとして失敗して以来、日本の軍部でも次第に独逸製品を拒むような機運が向いて来た。しかし小夜子が彼の屋敷を出たのには、切れても切れられない関係にあった、長いあいだの男の唆《そその》かしにも因《よ》るのであった。ようやくクールベから離れて来てみると、裏店《うらだな》へでも潜《くぐ》らない限り、その男とも一緒に行けないことも解《わか》って来た。
 水ぎわの家《うち》を初めてからも、クルベーはそっとやって来て、この商売はやってもいいから、たまには逢うことにしようと言うのだったが、近所が煩《うる》さいし、人気商売だから、寄りついてくれても困ると言って、小夜子はぴったり断わった。――と小夜子はそういうふうに話していたが、まるきり縁が切れてしまったものとも思えなかった。
 小夜子は今夜のように酔
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