こ》すはずの金を、小夜子の掛引きでかクルベーの思い違いでか、いずれにしても彼の態度が気にくわぬので、押しかけて行って弾《はじ》き返されるのが癪《しゃく》だというように聞こえた。
 クルベーはまだ十分小夜子に未練をもっていた。彼は今少し何とか景気を盛りかえすまで、麹町《こうじまち》の屋敷に止《とど》まっているように、くどく彼女に勧説《かんぜい》したのであったが、小夜子は七年間の不自然な生活も鼻についていた。クルベーのように、自分を愛してくれたものもなかったが、クルベーほど彼女のわがままを大目に見てくれたものもなかった。若い歌舞伎《かぶき》俳優と媾曳《あいびき》して夜おそく帰って来ると、彼はいつでもバルコニイへ出て、じっと待っているのだった。
「貴女《あなた》浮気して来ました。いけません。」
 美しい大入道のクルベーはさすがに、顔を真赤にして怒っていた。
 またある時は、病気にかこつけて、温泉場の旅館で、芳町時代から、関係の断続していた情人と逢《あ》っているところへ、いきなりクルベーに来られて、男が洋服を浚《さら》って、縁から転《ころ》がり落ちるようにして庭へ逃げたあとに、時計が遺《のこ》
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