ばかりして来たのも、精根の続かない彼の弱い体としては仕方のないことかも知れなかったが、天性の怠けものでもあった。
「今夜のうちに、たとい一枚でも口を開けておおきになったら。」
 幾日も幾日も気むずかしい顔をして、書き渋っている庸三の憂鬱《ゆううつ》そうな気分を劬《いたわ》りながら、妻はそう言って気を揉《も》んでいたものだったが、庸三はぎりぎりのところまで追い詰められて来ると、仕方なし諦《あきら》めの気持でペンを執るのであった。書き出せば出したで、どうにか形はついて行くようなものの、いつも息が切れそうな仕事ばかりであった。収入も少なかったので、彼は自分の金をもつというような機会もめったになかった。妻はそれで結構家を楽しくするだけの何か気分的なものをもっていて、計算の頭脳もない代りに、彼女なりの趣味性ですべての設計を作って行った。教養があるのでもなく、本質的な理解もないながらに、彼の仕事や気分が呑《の》みこめるだけの勘はあったので、彼は仕事場の身のまわりまで委《まか》せきりで、手紙一本の置場すら決まっていた。彼女の手にかかると、毎日の漬《つ》けものの色にも水々した生彩があり、肴《さかな》や
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