ダリアの花のように、茶碗《ちゃわん》大に刳《く》り取られたままに、鮮血のにじむ隙《すき》もない深い痍《きず》であった。綺麗《きれい》といえばこの上ない綺麗な肉体であった。その瞬間葉子は眉《まゆ》を寄せて叫んだ。
「見ちゃいやよ。」
もちろん庸三は一目見ただけで、そこを去ったのであったが、手術の後始末がすんで、葉子が病室へ搬びこまれてからも、長くは傍《そば》にいなかった。やがて不愉快な思いで彼は病院を辞した。そしてそれ以来二三日病院を見舞う気もしなかった。
庸三の足はしばしば例の川ぞいの家への向いた。ある書店でちょうど大量の出版が計画されたころで、彼もその一冊を頒《わ》けられることになっていたので、原稿を稼《かせ》がない時でも、金の融通はついたので懐《ふとこ》ろはそう寂しくはなかった。それにしても収穫《みいり》の悪いのに慣れている彼の金の使いぶりは、神経的に吝々《けちけち》したもので、計算に暗いだけになお吝嗇《しみっ》たれていた。それにしても纏《まと》まった金を自分の懐ろにして、外へ出るということは、彼の生涯を通してかつて無いことであった。その日その日に追われながら、いきなりな仕事
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