じめ》なステップを踏んでいる、彼の勇ましい姿を群衆のなかに発見して、思わず微笑したものだった。
「どうです。運動に一つおやりになっては。初めてみるとなかなか面白いものですよ。」
ドクトルは傍《そば》へ寄って来て勧めた。
そのドクトルが今夜も来ているのであった。小夜子はそれをことさら煩《うるさ》がっているような口吻《くちぶり》を洩《も》らしていたが、庸三自身も蔭《かげ》でどんなことを言われていたかは解《わか》らないのであった。
庸三は葉子がこのドクトルの家《うち》に身を寄せていたのを想像してみたりしたが、女学校卒業前後に何かいやな風評が立って、それを避けるために、ドクトルの家でしばらく預かることになったというのは、よくよくの悪い邪推で、真実は音楽学校の試験でも受けに来ていたというのが本当らしかった。庸三は葉子と交渉のあった間、もしくはすっかり手が切れてしまってからも、後から後からと耳に入るのは、いつも彼女の悪いゴシップばかりで、ある時は正面を切って、彼女を擁護しようと焦慮《あせ》ったことが、二重に彼を嘲笑《ちょうしょう》の渦《うず》に捲《ま》きこんで、手も足も出なくしてしまった。
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