の。」
 庸三は頷いた。
「あの男、情熱家のようだね。」
「そうよ。私が部屋へ入ると、いきなり飛びついて天井まで抱きあげたりして……でもあの人何だか変なところがあるの。」
 葉子は顔を紅《あか》くして、俛《うつ》むいていた。
「今度どこで逢うのさ。」
「どこか水のあるところがいいようなことを、あの人も言っていたけれど……。」
 葉子は画家の草葉《そうよう》と恋に陥《お》ちて行ったとき、夜ふけての水のうえに軋《きし》む櫓《ろ》の音を耳にしながら、楽しい一夜を明かしたかつての思い出のふかい、柳橋あたりの洒落《しゃ》れたある家のことをよく口にしたものであったが、今度も多分その辺だろうかとも思われた。
「ちょっと見せてごらん。」
 庸三はそう言ってその文を取ってみたが、場所はそれと反対の河岸《かし》で、家の名も書いてあった。それに文句が古風に気障《きざ》で、「ようさままいる」としたのも感じがよくなかった。庸三は案に相違して、むしろ歯が浮くような厭味《いやみ》を感じた。
「一つそっとその家《うち》へ上がって見てやろうかな。」
 庸三は笑談《じょうだん》らしく言ってみた。
「ええ、来たってかまわな
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