ました。」と言って、結び文《ぶみ》のようなものを、そっと葉子に手渡した。
葉子は麻布《あざぶ》のホテルで逢《あ》って来て以来、秋本のことをあまりよくは噂《うわさ》しなかった。彼の手が太く巌丈《がんじょう》なんでいやんなっちゃったとか、壁にかかっていた外套《がいとう》が、田舎《いなか》紳士丸出しだとか、いまだにトルストイやガンジイのことばかり口にして、田舎くさい文学青年の稚気を脱していないとか、ちょうどその翌晩に彼女はある新聞社の催しに係る講演などを頼まれ、ある婦人雑誌にも長編小説を書いていたりしていたところから、にわかに花々しい文壇へのスタアトを切り、新時代の女流作家としての存在と、光輝ある前途とが、すでに確実に予約されたような感じで、久しぶりで逢った秋本の気分が、何か時代おくれの土くさいものに思われてならなかった。
庸三は自分への気安めのように聴《き》き流していたが、いくらかは信じてもよいように思えた。
「今度もう一度逢いに行かしてね。わざわざ遠くから出て来ても、あの日は私も気が急《せ》いて、しみじみ話もできなかったもんで、どこか静かな処《ところ》で、一晩遊ぼうということになった
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