をもつことから教わったんだが、幾日来ても物にならずじまいさ、君はつけるかい。」
「北海道では撞《つ》いたもんでしたけれど。あの時分は奥さん方のいろいろな社交もあって、ダンスなんかもやったものなのよ。S――さんの弟さんの農学士の人の奥さんに教わって。」
葉子はいつの場合でも、ロマンチックな話の種に事欠かなかった。グロなその夫人と、土地の商船学校にいた弟との恋愛模様とか、その弟に年上の一人の恋人があって、その弟とのあいだに出来た子供を抱えながら、生花やお茶で自活していることだの、または葉子が乳の腫物《はれもの》を切開するために入院したとき、刀を執った医学士が好きになって、後でふらふらとその男を病院に訪ねて拒絶されたことなど。そうかと思うと、原稿紙をもって不意に姿を晦《くら》まして人を騒がせ、新聞のゴシップ種子《だね》になるようなことも珍らしくなかった。
町に薄暗い電気がつく時分に、宿へ帰って楽しい食卓に就《つ》いた。思い做《な》しか庸三はここの玄関の出入りにも、何か重苦しいものをこくめい[#「こくめい」に傍点]な番頭たちの目に感じるのだったが、葉子は水菓子を女中に吩咐《いいつ》けるにも
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