なお》るとみえた創《きず》は癒らないで、今まで忘れていた痛みさえ加わって来た。何といっても内科と婦人科のドクトルのメスには、手ぬるいところがあった。思い切った手術のやり直しが必要であった。庸三は彼女を紹介する外科のある大家のこともひそかに考えていたが、田舎《いなか》での不用意な荒療治が、すっかり葉子を懲りさせていた。
「それよりも私温泉へ行こうと思うの。湯河原《ゆがわら》どう?」
葉子はある日言い出した。
「そうだね。」
「お金はあるの。先生に迷惑かけませんわ、二人分四百円もあったら、二週間くらい居られない?」
庸三もいくらか用意して、東京駅から汽車に乗ったのは、翌日の午後であった。葉子は最近用いることになったゴム輪の当てものなどもスウト・ケイスのなかへ入れて、二人でデパアトで捜し出した変り織りの袷《あわせ》に、黒い羽織を着ていたが、庸三もあまり着たことのない、亡《な》き妻の心やりで無断で作っておいてくれた晴着を身に着けて、目の多い二等車のなかに納まっていた。
十
湯河原ではN――旅館の月並みな部屋に落ち着いたが、かつて庸三が丘に黄金色《こがねいろ》の蜜柑《みかん
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