ついて来て、一流の料亭《りょうてい》へタキシイをつけることもしばしばあった。というのも、二人の女中まかせの庸三の台所は、ひどく不取締りで、過剰な野菜がうんと立ち流しの下に腐っていたり、結構つかえる器物がそこらへ棄《す》てられたり、下品な皿|小鉢《こばち》が、むやみに買いこまれたりして、遠海ものの煮肴《にざかな》はいつも砂糖|漬《づ》けのように悪甘く、漬けものも溝《どぶ》のように臭かった。それに紛失物もたびたびのことで、渡す小使の用途も不明がちであったが、女中の極度に払底なそのころとしては、目を瞑《つぶ》っているよりほかに手はなかった。
しかし料亭の払いは、いつも庸三がするとは決まっていなかった。むしろ大抵の場合、葉子が帯の間から蟇口《がまぐち》を出して、
「私に払わせて。」
と気前をよくしていた。彼女は無限の宝庫をでも持っているもののように見えた。
やがて涼風が吹いて来た。葉子は二度目に移って行った隣りの下宿屋の二階家から、今度はぐっと近よって、庸三のすぐ向う前の二階家に移っていた。そのころになると、彼女も庸三の口添えで、ある婦人文学雑誌に連載ものを書きはじめていたが、一時|癒《
前へ
次へ
全436ページ中148ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング