ったが、来る日も来る日も同じことが繰り返されるだけで、はかばかしく行かなかった。
庸三は時とすると、奥の部屋で子供たちとも一緒に、窮屈な一つ蚊帳《かや》のなかに枕《まくら》を並べるのだったが、世帯《しょたい》が彼女の世帯で、その上子供や女中もいるので、気持に落着きもなかったし、葉子も時には闖入者《ちんにゅうしゃ》に対するような目を向けるので、和《なご》やかというわけには行かなかった。彼は少し腹立ち気味で、ふいと出て来るのであったが、古い自分の書斎も心持を落ち着かせてはくれなかった。ある時などは引き返して行って、蚊帳のなかにいる彼女の白い頬《ほお》を引っぱたいて来ることすらあった。葉子はぽっかり彼を見詰めたきり呆《あき》れた顔をしていた。
それに葉子はいつも家にいるわけではなく、庸三が行ってみると、女中が一人留守居をしていることもあれば、戸が閉まっていることもあった。
庸三が自動車で買いものをして歩く彼女を、膝《ひざ》のうえに載せて、よく銀座や神田あたりへ出たのも、そのころであった。柱時計を買うとか、指環《ゆびわ》を作りかえるとか、または化粧品を買うとか。それに外で食事をする習慣も
前へ
次へ
全436ページ中147ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング