ごみ方を考えると、寝てもいられないような気にもなるのであった。
 着物を着かえて、ステッキを掴《つか》んで門を出ると、横町の角を曲がった。すると物の十間も歩かないうちに、にこにこ笑いながらこっちへやって来る彼女の姿に出逢《であ》った。古風な小紋の絽縮緬《ろちりめん》の単衣《ひとえ》を来た、彼女のちんまりした形が、目に懐かしく沁《し》みこんだ。
 葉子は果して慈父に取り縋《すが》るような、しおしおした目をして、しばらく庸三を見詰めていた。
「先生、若いわ。」
 まだ十分恢復もしていないとみえて、蚕《かいこ》のような蒼白《あおじろ》い顔にぼうッと病的な血色が差して、目も潤《うる》んでいた。庸三は素気《そっけ》ないふうもしかねていたが、葉子は四辻《よつつじ》の広場の方を振り返って、
「私、女の子供たちだけ二人連れて来ましたの。それに女中も一人お母さんが附けてくれましたわ。さっそく家を探さなきゃなりませんわ。」
 そう言って自動車の方へ引き返して行くと、その時車から出て来た幼い人たちと、トランクを提《さ》げた女中とが、そこに立ち停《ど》まっている葉子の傍《そば》へ寄って来た。
「さあ、おじさん
前へ 次へ
全436ページ中143ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング