の靡《なび》く方嚮《ほうこう》によって人の運命を占うという老婆が、じめじめした薄暗い部屋に坐りこんでいて、さっそく葉子の身の上を占いにかかった。彼女はほう気立《けだ》った髪をかぶって、神前に祈りをあげると、神に憑《つ》かれているような目をして灯の揺らぎ方を見詰めていた。
「東の方の人をたよりなさい。その人が力を貸してくれる。」
 訛《なまり》の言葉でそんな意味の暗示を与えた。ここから東といえば、それが当然素封家の詩人秋本でなければならなかった。
 今、葉子が威勢よく上京して来るというのも、陰にそうしたペトロンを控えているためだとは、彼も気づかないではなかったが、その時の気持はやっぱり暗かった。
 庸三は葉子の従兄筋《いとこすじ》に当たる、町の青年文学者島野黄昏に送られながら、一緒に帰りの汽車に乗ったのであったが、何か行く手の知れない暗路へ迷いこんだような感じだった。
 その悩みもやや癒《いや》された今、彼はなお迎えに出ようか抛《ほう》っておこうかと惑っていた。しかし病床に仰臥《ぎょうが》しながら、捲紙《まきがみ》に奔放な筆を揮《ふる》って手術の予後を報告して来た幾つかの彼女の手紙の意気
前へ 次へ
全436ページ中142ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング