。
葉子とよく一緒に歩いた、深い松林のなだらかなスロオプが目に浮かんで来た。そこは町の人の春秋のピクニックにふさわしい、静かで明るい松山であった。暑さを遮《さえ》ぎる大きな松の樹《き》が疎《まば》らに聳《そび》え立っていた。幼い時の楽しい思い出話に倦《う》まない葉子にとって、そこがどんなにか懐かしい場所であった。上の方の崖《がけ》ぎわの雑木に茱萸《ぐみ》が成っていて、萩《はぎ》や薄《すすき》が生《お》い茂っていた。潮の音も遠くはなかった。松の枝葉を洩《も》れる蒼穹《そうきゅう》も、都に見られない清さを湛《たた》えていた。庸三も田舎《いなか》育ちだけに、大きい景勝よりも、こうしたひそやかな自然に親しみを感じた。二人は草履穿《ぞうりば》きで、野生児のようにそこらを駈《か》けまわった。
葉子の家の裏の川の向うへ渡ると、そこにも雪国の田園らしい、何か荒い気分のする場所があって、木立は深く、道は草に埋もれて、その間に農家とも町家ともつかないような家建ちが見られた。葉子はそうした家の貧しい一軒の土間へ入って行って、「御免なさい」と、奥を覗《のぞ》きこんだ。そこには蝋燭《ろうそく》の灯《ひ》の炎
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