し》をつけただけであった。
 咲子は人も場所も、何か勝手がちがったようで、嬉《うれ》しそうでもなかったが、始終にこにこしていた。
「いつかクルベーさんと、何かのはずみで、急に日光へ行くことになって、上野駅へ来たのはよかったけれど、紙入れを忘れて来てしまったんですのよ。時間はないし、仕方がないから私がこの家へ来て事情を話すと、黙って三百円立て替えてくれたことがありましたっけ。」
 そんな話も出たりして、帰りに三人で夜店の出ている広小路をあるいた。小夜子は子供の手を引いていたが、そうして歩くにも、何か人目を憚《はばか》るらしいふうにも見えるのであった。
 ふと葉子の話が出た。
「僕もつくづくいやになった。止《よ》そうと思う。」
「止しておしまいなさい。」
「あと君が引き請ける?」
 頼りなさそうな声で、
「引き請けます。」

 今、庸三は別にそれを当てにしているわけではなかったけれど、葉子と別れるには、そうした遊び相手のできた今が時機だという気もしていたので、葉子を迎えに行くのを怠《ずる》けようとして、そのまま蚊帳《かや》のなかへ入って、疲れた体を横たえた。彼はじっと眼を瞑《つぶ》ってみた
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