にお辞儀なさい。」
 子供たちはぴょこんとお辞儀して、にこにこしていたが、この子供たちを纏《まと》めて来て、新らしい生活を初めようとする母親の苦労も容易ではなかった。それも物事をさほど億劫《おっくう》に考えない、夢の多い葉子の描き出した一つの芸術的生活構図にすぎなかった。

 庸三が三十年も住み古しの狭い横町と並行した次ぎの横町に、すぐ家が見つかって、庸三の裏の家に片着けてあった彼女の荷物――二人で一緒に池の畔《はた》で買って来たあの箪笥《たんす》と鏡台、それに扉《とびら》のガラスに桃色の裂《きれ》を縮らした本箱や行李《こうり》、萌黄《もえぎ》の唐草《からくさ》模様の大風呂敷《おおぶろしき》に包まれた蒲団《ふとん》といったようなものを、庸三の頼みつけの車屋を傭《やと》って運びこむと、葉子も子供たちを引き連れて、隣の下宿を引き揚げて行った。
 大家族主義の田舎の家に育った葉子のことなので、そこに初めて子供たちと一つの新らしい自分の世界をもつことは、何といっても楽しいことに違いなかった。田舎の家もすでに母の心のままというわけにも行かない。相続者の兄家族は辺鄙《へんぴ》にあるその家を離れて、
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