としませんよ。」
 化粧がすむと着物を着かえて、まるで女優の楽屋入りみたいな姿で、自身で見しりの客の座敷へ現われるのであった。座敷を一つ二つサアビスして廻ると、きまって酔っていた。呷《あお》ったウイスキイの酔いで、目がとろんこになり、足も少しふらつき気味で、呂律《ろれつ》も乱れがちに、でれんとした姿で庸三の傍《そば》に寄って来ることもあった。
「相当なもんだな。」
 庸三は無関心ではいられない気持で、
「随分|呑《の》むんだね。そう呑んでいいの。」
「大丈夫よ、あれっぽっちのウイスキイ。私酔うと大変よ。」
「お神さん!」
 廊下で呼ぶ声がする。
「今あの人たちみんな帰りますから。」
 しかし、そんな晩、彼女がどこで寝たかも彼には解《わか》りようもなかったし、何か商売の邪魔でもしているような気もして、彼はタキシイを言ってもらうのだったが、時には電気|行燈《あんどん》を枕元《まくらもと》において、ギイギイという夜更《よふ》けの水の上の櫓《ろ》の音を耳にしながら話しこむことも珍らしくなかった。
 ある日も庸三は小夜子と一緒に、彼女の門を出た。
「先生、今日お閑《ひま》でしたら、神田まで附き合
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