とかにいた、姉も田舎《いなか》へ帰ってしまって、彼も座敷ばかりへ通されていなかった。時間になると小夜子は風呂《ふろ》へ入って、それから鏡の前に坐るのであった。顔をこってり塗って、眉《まゆ》に軽く墨を刷《は》き、アイ・シェドウなどはあまり使わなかったが、紅棒《ルウジュ》で唇《くちびる》を柘榴《ざくろ》の花のように染めた。目も眉もぱらっとして、覗《のぞ》き鼻の鼻梁《びりょう》が、附け根から少し不自然に高くなっているのも、そう気になるほどではなく、ややもすると惑星のように輝く目に何か不安定な感じを与えもして、奈良《なら》で産まれたせいでもあるか、のんびりした面差《おもざ》しであった。美貌の矜《ほこ》りというものもまだ失われないで、花々しいことがいくらも前途に待っているように思えた。彼女は何かやってみたくて仕方がなかった。小説を書くということも一つの願望で、庸三は手函《てばこ》に一杯ある書き散らしの原稿を見せられたこともあった。
「私は何でもやってできないことはないつもりだけれど、小説だけはどうもむずかしいらしいですね。」
「男を手玉に取るような工合《ぐあい》には行かない。」
「あら、そんなこ
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