、筒袖《つつそで》の浴衣《ゆかた》一枚で仕事をしていたのだったが、雀《すずめ》の囀《さえず》りが耳につく時分に書きおわったまま、消えやらぬ感激がまだ胸を引き締めていた。
 電報を手にした時、彼は待っていたものが、到頭やって来たという感じもしたが、あわててもいた。
「……一年や二年、先生のお近くで勉強できるほどの用意もできましたので……」
 そう言った彼女の手紙を受け取ったのも、すでに三日四日も前のことであったが、立て続けに二つもの作品を仕上げなければならなかったので、あれほど頻繁《ひんぱん》に手紙を彼女に書いていた庸三も、それに対する返辞も出さずにいた。真実のところ彼はこの事件に疲れ果てていた。享楽よりも苦悩の多い――そしてまたその苦悩が享楽でもあって、つまり享楽は苦悩だということにもなるわけだし、苦悩がなければ倦怠《けんたい》するかもしれないのであったが、それにしても彼はここいらで、どうか青い空に息づきたいという思いに渇《かわ》いていた。
 この事件の幕間《インタアブアル》として、彼は時々水辺の小夜子の家《うち》へも、侘《わび》しさを紛らせに行った。その時分にはいつも中の間とか茶の間
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