、二人だけで暗い場末の街《まち》を歩いてみることや、通り筋の喫茶店でお茶を呑《の》むこともしばしばであった。葉子の家では以前町の大通り筋に塩物や金物の店を出していたこともあって、美貌《びぼう》の父は入婿《いりむこ》であったが、商才にも長《た》けた実直な勤勉家で、田地や何かも殖《ふ》やした方であったが、鉄道が敷けて廻船の方が挙がったりになってからも、病躯《びょうく》をかかえて各地へ商取引をやっていた。瑠美子が産まれてから間もなくその父は死んだが、葉子を特別に愛したことは、その日常を語る彼女の口吻《くちぶり》でも解《わか》るのであった。学窓に蔓《はびこ》っていた学生同志の同性愛問題で、そのころ教育界を騒がしたほどの女学校だけに、そしてそれがまた生徒と教師との恋愛問題をも惹《ひ》き起こしただけに、多分処女ではなかったらしい彼女の派手な結婚の支度《したく》や、三日にわたった饗宴《きょうえん》に金を惜しまなかった張り込み方を考えても、父の愛がどんなに彼女を思い昂《たかぶ》らせたか想像できるのであった。
 葉子の話では結婚の翌日、彼女は二階の一室で宿酔《ふつかよい》のさめない松川に濃い煎茶《せんち
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