かのなかに紛れこんで、都会へ持って来られたように、自然の生息《いぶき》そのままの姿態でそれがひとしお都会では幽婉《ゆうえん》に見えるのだったが、それだけまた葉子は都会離れしているのだった。
山路と二人でそうしている時に、表の方でにわかに自動車の爆音がひびいたと思うと、ややあって誰か上がって来る気勢《けはい》がして妹の声が廊下から彼女を呼んだ。――葉子はそっと部屋を出た。妹は真蒼《まっさお》になっていた。一色が来て、凄《すさ》まじい剣幕で、葉子のことを怒っているというのだった。
葉子は困惑した。
「そうお。じゃあ私が行って話をつける。」
「うっかり行けないわ。姉さんが殺されるかも知れないことよ。」
そんな破滅になっても、葉子は一色と別れきりになろうと思っていなかった。たとい山路の家庭へ入るにしても、一色のようなパトロン格の愛人を、見失ってはいけないのであった。
葉子が妹と一緒に宿へ帰って来るのを見ると、部屋の入口で一色がいきなり飛びついて来た。――しばらく二人は離れなかった。やがて二人は差向いになった。一色は色がかわっていた。女から女へと移って行く山路の過去と現在を非難して、涙を
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