この水辺の意気造りの家も、水があるだけに、来たてにはひどく感じがよかったが、だんだん来つけてみると、彼女の前生活を語るようなもろもろの道具――例えば二十五人の人夫の手で据《す》えつけたという、日本へ渡って来た最大の独逸《ドイツ》製金庫の二つのうちの一つだという金庫なぞがそれで、何かそこらの有閑マダムのような雰囲気《ふんいき》ではあったが、室内の装飾などは、何といってもあまり感じのいいものではなかった。
「そのうち追々取り換えるんだね。」
庸三は窓際《まどぎわ》に臥《ね》そべっていた。小夜子も彼の頭とほとんど垂直に顔をもって来て、そこに長くなっていた。そうして話していると、彼女の目に何か異様な凄《すご》いものが走るのであった。
「私芝にいた時、ちょうど先生にお目にかかった時分、こういうことがあったんです。」
小夜子は語るのであった。
「ある人がね、私は麹町《こうじまち》の屋敷を出たばかりで、方針もまだ決まらない時分なの。するとその人がね、君ももう三十を過ぎて、いろんなことをやって来ている。鯛《たい》でいえば舐《ねぶ》りかすのあらみたいなもんだから、いい加減見切りをつけて、安く売っ
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