三人とも浅草で飲んで来たとかいつて、いくらか酒の気を帯びてゐた。彼等は彼女の朋輩の一人の部屋へ入れられて、そこで新造《しんぞ》たちを相手に酒を飲んでゐたが、彼女自身はちよつと袿《うちかけ》を着て姿を見せただけで……勿論どんな客だかといふことは、長いあひだ場数を踏んで来た彼女にも、淡い不安な興味で、別にこてこて白粉《おしろい》を塗るやうなこともする必要がなかつたし、その時は少し病気をしたあとで、我儘《わがまゝ》の利く古くからの馴染客《なじみきやく》のほかはしばらく客も取らなかつたし、初会《しよくわい》の客に出るのはちよつと面倒くさいといふ気もしてゐたので、気心を呑込《のみこ》んでゐる新造にさう言はれて、気のおけないやうなお客なら出てもいゝと思つて、袖口の切れたやうな長襦袢《ながじゆばん》に古いお召の部屋着をきてゐたその上に袿《うちかけ》を無造作《むぞうさ》に引つかけて、その部屋へ顔を出して行つたのであつたが、鳩のやうな其の目はよくその男のうへに働いた。
「ちよい/\こんな処へ来るの。」
「いや、僕は初めてだ。」
「お前さんなんかの、余り度々来るところぢやありませんよ。」
彼女はその男が
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