部屋へ退《ひ》けてから、自分で勘定を払はせられて、素直に紙入から金を出してやるのを、新造に取次いだあとで、そんなことを言つて笑つてゐたが、男は女に触れるのをひどく極り悪さうにしてゐた。
「今度来るなら一人で来るといゝわ。あんな取捲《とりまき》なんかつれて来ちや可けませんよ。」彼女はまたそんな事を言つて、これも其の男に触れるのを遠慮するやうにしてゐた。
「それあ何《ど》うしたつて、こんな処にゐるものには、悪い病気がありますからね、不見転《みずてん》なんか買ふよりか安心は安心だけれど……。」彼女は幾分|脅《おど》かし気味で、そんな事を話したが、男が彼女のこゝへ陥《お》ちて来た径路などを聞かうとして、色々話しかけると、若い癖にそんなことは聞かなくともいゝと言つた風で、笑つてゐた。
しかし何のこともなかつた。朝帰るときに、いつも初めての客にするやうに肩をたゝくやうなことも、わざとらしくて為《す》る気がしなかつたので、たゞ、「思出したら又おいでなさい」と、笑談《ぜうだん》らしく言つたきりであつた。
それから其の男は正直に二三度独りでやつて来た。そして馴染《なじ》むにつれて、お互に身の上話など
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