僕の母はほんとうに寛容な心をもつた人なんだ。」
「それでも女郎と一緒になるといへば、きつと吃驚《びつくり》するわ。」
 新造が入つて来た。

 一週間ほどたつと、男はそれだけの金を耳をそろへて持つて来たが、女は其のうち幾分を取つただけで、意見をして幾《ほと》んど全部を返した。

 夏になつてから、その学生は田舎《ゐなか》へ帰省してしまつた。勿論その前にも一二度来たが、女は何だか悪いやうな気がして、わざと遠ざかるやうに仕向けることを怠らなかつた。勿論彼女は、飲んだくれの父のために、不運な自分や弟たちが離れ/″\になつて世のなかの酸苦をなめさせられたことを、身に染《し》みてひどく悲しんでゐた。彼女の唯一の骨肉であり親愛者である弟も、人づかひの劇《はげ》しい大阪の方で、※[#「兀にょう+王」、第3水準1−47−62]弱《よわ》い体で自転車などに乗つて苦使《こきつか》はれてゐた。彼女は時々彼に小遣などを送つてゐた。病気をして、病院へ入つたと云ふ報知《しらせ》の来たときも、退院してしばらく田舎へ帰つたときにも、彼女は出来るだけ都合して金を送つてゐた。最近彼の運も少しは好くなつてゐたが、客として上
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