雛子は褄《つま》をつまんで出て行つた。
ちやうど圭子が風呂へ行つてゐたので、咲子が雛子の脱ぎ棄ての村山大島と安錦紗《やすきんしや》の襲《かさ》ねを取りあげて畳まうとしたが、ちよつと匂ひをかいで見て、
「うむ臭い!」
と言つて、平べつたい鼻に皺《しわ》を寄せた。そして畳むかはりに、くる/\と丸めて押入の隅へ投《はふ》りこんでしまつた。
「臭いか。」
蓮見がきくと、
「臭い!」
「お前のお父さんの部屋は、迚《とて》も臭かつたぜ。あんな汚ない蒲団のなかで、熟柿《じゆくし》くさいお父さんに抱かれて寝てゐても臭くなかつたのか。」
「臭くないんです。好い匂ひなんです。」
「あれは何の臭気《にほひ》だい。」
「私ね、おしつこすると、お父ちやんが翌朝外へ出して干すの。さうすると綿がふか/\して、迚もいゝ気持なんです。」
「寝小便するのか。」
「することもあるんですけれど、目がさめた時は、下へ行くの暗くて恐《こは》いから、七輪のなかへするんです。」
「それだとお灸《きう》もんだね。」
「をぢさんは?」
「子供の時から一度もしない。」
「ふむ!」咲子はぢつと彼を見てゐた。
やがて咲子は玄関脇の二
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