ら又|何《な》んとか考へませうが……。」咲子をぢつと見て、
「お前は馬鹿だね。この姐《ねえ》さんとこにゐられないやうなら、何処《どこ》へ行つたつて駄目だぞ。――お父ちやんが好い家へ行つたと言つて、安心して田舎へ帰つたのにさ。」
「親父さんも手甲摺《てこず》つたものらしいのですね。」
「いや、私も余り深いことは知らないので、講中の附合で知つてゐるところから、是非心配してくれといはれましてね。」
圭子の傍に坐つてゐた咲子は、遽《にはか》にえへゝと笑ひ出した。ちよつと見ると、それは大人を小馬鹿にしてゐるのだとしか思へないので――今までもそれを悪摺《わるず》れのせゐにしてゐたものだが、それの間違ひであつたことが、較々《ほゞ》感づけて来た訳《わけ》だつた。藤子の鑑定したやうに、早晩痴呆症の発作が咲子に起らないとも限らないのであつた。
兎に角置いて来たのだつたが、三日ばかり経つと、渡辺が再びチビを連れてやつて来た。そして、何といつても此処が籍元だからといふ理由で、否応《いやおう》なしになすりつけて行つてしまつた。無論三軒ばかり見せて歩いた結果であつた。
圭子は押返す勇気もなかつた。当分のつも
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