訊くのよ。それあ私だつて心配があるわよ。大人には小さい人にわからない心配があるのよと言ふとね、姉さんなんか些《ちつ》とも心配することなんかないぢやないか。をぢさんが死んでも、この家もアパートもあるんだから、ちつとも困りやしないつて言ふのよ。その癖自分のことは何も言はないの。敵《かな》はないわ。」
蓮見は笑へもしなかつた。
「へえ、チビの主観だ。」
「勝手で横着なだけに、可哀さうなところもあるの。だけど何だか少し厭な子ね。松やと一緒に寝かさうと思つても、何うしても厭だと言つて頑張《ぐわんば》るし、煙草でも買はせにやれば、入りこんで油を売つてゐるし、長くゐるうちには近所隣り何処へでも入りこんで、困ると思ふわ。」
「何しろ時々凄いこと言ふよ。」
傍にゐた三男も、林檎《りんご》を食べながら笑つてゐた。
九時頃だつたけれど、咲子はもう納戸《なんど》で寝てゐた。
藤子の話によると、ちよつとした言葉の行掛りから、或時咲子は意地づくで水風呂のなかへ飛びこんでしまつた。風呂好きな彼女は風呂の催促でもしたものらしかつたが、いつも藤子達が入つてから入れられ、時間の都合では、をばさんが洗つてやるので、
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