て、暫く洋服やスエタアの飾窓を眺めてゐた。蓮見も思はないことはなかつたが、長年デパアトで子供洋服の見立をやつて来てゐたので、何か億劫《おくくふ》であつた。甘やかせば甘やかすほど附けあがる咲子の性質も気に入らなかつた。此頃彼女は圭子をも舐《な》めてかゝつてゐた。何《ど》んなに眠いときでも、蓮見がおこすと、渋くりながらも便所へも立つのであつたが、圭子では世話を焼かすばかりであつた。
圭子と蓮見は、買ひものがてら、見たい映画を見たのであつたが、今日のやうに二人そろつて外出する場合、咲子は箪笥《たんす》から着物を出してゐる圭子の後ろへまはつて、
「お母ちやんいゝね。」
と、さも羨《うらや》ましさうにしみ/″\した顔で言ふので、圭子も蓮見も気が咎めるくらゐだつた。圭子だけだつたら、そんな場合|屹度《きつと》連れて出たであらうと思はれた。
帰つて来たのは、九時頃だつた。咲子はと看ると、どこにもゐなかつた。
「咲子何うしたの。」
雛子が其処にゐて、
「咲ちやん表へ出ました。余り言ふこと聞かないから、出て行けつて言つたら、さつさと出て行つたんです。」
「どこへ行つたらう。」
「今に帰つて来ます
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