だ道具などの不揃ひがちな、圭子の部屋にも、或る飽足りなさを感じてゐて、今まで見て来た家で、裕福さうな綺麗な家のことを思ひ出してゐるらしかつた。
 不断口数の少ない圭子は、咲子が来てから、朝から夜まで何か小言を言つてゐなければならなかつた。近所の男の子に追つかけられて、入口の硝子戸《ガラスど》に石を投げられたり、圭子が警告されたほど、居周《ゐまは》りの家へ入りこんでお饒舌《しやべり》をしたり、又は遠走りをしたり、八飴屋《はちあめや》の定連であつたりするのは可いとして、圭子の娘として、抱への人達を、奉公人のやうに見下す気持から圭子の留守の時は、何一つ彼女達の言ふことを素直に聞いたことはなかつた。
 或る晩圭子は蓮見と一緒に、時節の半衿《はんえり》や伊達巻《だてまき》のやうな子供たちの小物を買ひに、浅草時代の馴染《なじみ》の家へ行つて、序でに咲子の兵児帯《へこおび》や下駄なども買つた。
「ここにセイラ服があるけれど、あの子の貯金がいくらか溜つたら買つてあげるつて言つてゐるの。其は其として、安いものだから一つ買つてもいゝんだけれど、あの子も余り可愛気がなさすぎるから……。」
 圭子は店頭に立つ
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