は近所の子供の、洋服にランドセイルを背負つた学校通ひの姿を、いつも羨《うらや》ましいものに思つてゐたので、咲子が来るとすぐ学校のことを人に聴き合せたのであつたが、大抵この界隈《かいわい》では夜学へやるのが多かつた。好い学校は少し遠くもあるし、夜の商売なので、朝早く出してやるには女中もおかなければならなかつた。誰か子供好きの女中が見つかるまで当分夜学へやらうかと考へてゐたが、その夜学も、思つたより風紀がわるくて、反つて子供の純白さが汚され、飛んだ不良になりがちだことを、経験者から教へられたので、それも考へものだと思つてゐた。何よりもトラホームが問題であつた。医者は雑誌など読ませないやうに、風呂へも長くいれては悪いし、御飯も咲子の不断の習慣の、三度々々の大盛の三杯を、二杯に減らした方がいゝといふので、出来るだけさうさせるやうにしてゐたが、何うかすると病院へ行くのを厭がつたり、自分で出来る洗滌《せんでう》も、成るべくずるけてゐたい方であつた。圭子はよく彼女を捉《つかま》へて、注《さ》し薬《ぐすり》をたらして滲《し》みこませるために、目蓋《まぶた》を剥《む》きかへして、何分かのあひだ抑へてゐる
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